
私は株式会社TOGLの代表としてSEOの仕事を長年担当してきました(今もしています)。弊社の仕事はテクニカルSEOよりもコンテンツSEOの仕事が多いですが、chatGPTやGeminiなど生成AIの登場もあって、オウンドメディアやコンテンツSEOについて、現在(2025年)は過渡期だな……という印象を抱いています。
果たしてコンテンツSEOの仕事はなくなるのか? オウンドメディアはどんな存在になっていくのか、またテキストコンテンツは今後どうなるのか。考えてみます。
コンテンツSEOの仕事はなくなるのか?
「SEOっぽい記事(言葉として正しいかはさておき)」が量産されています。キーワードをばらまき、ググって上位にある10記事要約した内容で書くような。SEO記事を自動生成するツールがすでにありますが、GeminiやchatGPTやClaudeなどがかなり優秀なのでそれで事足りるレベルになってきました。プロットや原稿の作成はほとんどAIでもできる時代です。もちろん冗長すぎたり、間違いもあったり、完璧ではありませんが進歩のスピードは目を見張るものがあります。
Googleの品質評価ガイドラインは一貫して、読者のためになるコンテンツを評価するように心がけていますが、低品質のコンテンツが増え続けている現状もありGoogleはより「E-E-A-T」の観点から一次情報や体験を重視するようになっています。
・参考:Google検索セントラル
しかしそれはすなわち、編集プロダクションやライターにとってはより制作コストが高くなることを意味します。記事のファクトをしっかり担保し、ていねいに取材をする。それが当然で望ましいのはもちろんですが、制作コストを発注するクライアントにお願い(転嫁)できるかは別の問題。「AIでいいんじゃない?」となる場合もあるかもしれません。それが繰り返されると、業界全体の単価が下がってしまいかねない。
テクニカルSEOは依然やるべきことがたくさんあると思いますが、コンテンツSEOの分野は岐路に立たされているようにも思います。
オウンドメディアブームとSEO記事の量産
2017年前後からオウンドメディアブームのようなものがあって、「オモコロ」「ジモコロ」的な面白系の記事、例えば今でも現役ですが「丸い顔写真のアイコンにフキダシで会話させる」形式の記事が多く生まれました。
ただ集客やコンバージョンに繋げたい企業側からすると、バズりを狙うのは
リスクが高い。それでSEOに白羽の矢が立った流れがあったように思います(当社もそれでお問い合わせが増えました)。
アナリティクスを見ていても、検索流入が一定の割合で流入チャネルとして存在したほうがアクセスも安定するし、見込み顧客のニーズを把握してキーワードを選定し、申し込み動線へ繋げる……というのはSEOを意識した記事の方がやりやすい。
弊社では集客・コンバージョンにきちんと繋がり、かつ読み応えのある記事をライターが書く……という点にこだわってきており、実際、上位をキープしつつ成果を高めている記事が多く存在します。
・関連記事:TOGLの実績
一方で冒頭にあった事態があって、SEO記事バブルのようになってしまった(Googleもだいぶ精度が上がっているはずですが、ハックされているキーワードは多数存在します)。
また、YouTubeなど動画メディアに接するユーザーの時間が増え、さらにTiktok(Live)などショート動画・ライブ配信により広告費用投入としても増えてきている印象があります。
テキストコンテンツはなくなってしまうのか?

ではWebメディアやブログ、テキストコンテンツはなくなってしまうのか。私はそうは思いません。
まずSEOに関して言うと、chatGPTやGeminiやClaudeにしてもだいぶ精度が上がっていますが、これらAIは「こちらが望んでいる答えを出してくれる」傾向があります。意外性や、違う角度での提案というより、今までのプロンプトの傾向を分析して適した答えを出してくれる。エントロピー理論や確率論が大元にあるので、プロンプトやプロジェクトの中の文脈に応答が偏っていきます。AIの仕組みからいって、それは当たり前だと思います。
- 「子ども 服 汚れ 洗い方」
- 「炊飯器 おすすめ」
- 「SEOとは」
などすぐ答えを求めるキーワードに対してはAI生成コンテンツがより求められるようになるか、そもそもGoogleを利用せずchatGPTアプリ内でユーザーの検索が終了するようになるのではないでしょうか。
※アメリカ版ではGoogleがAIモードを搭載し始めています。現在のような検索結果ページ(SERPs)で上位記事がリストアップされるというより、プロンプトに対しての答えとして結果を出すイメージに近くなりそうです。
ただそれ以外のキーワード、例えば
- 「子ども 保育園 行きたくない」
- 「ZINE 作り方 種類」
- 「新しい ガンダム 感想」
など、「人(ひと、ニン)」に結果が依存する内容(それを期待されているキーワード)は変わらず需要があると考えます。AIでカバーされる部分があれば検索ボリュームは今よりも少なくなるでしょうけれど、テキストの利点は速さです。テキストは動画や画像、音声よりも通信で届くスピードが速い。長い記事は避けられる傾向が近年出てきていますが、「子ども 保育園 行きたくない」などは複数の記事をじっくり読みたい需要もあるはずです(キーワードやインテントは一例ですけれども)。そういう意味で、テキストコンテンツがなくなることはないと思います。AIの進歩はめざましいですが、それに対してどう人が変化していくかにもちろん、影響されると思います。
オウンドメディアは昔から存在していた
「オウンドメディア」という言葉が生まれる前から、パンフレットやDMなど、オウンドメディア的な媒体は大昔から存在してきました。
鹿島茂『デパートを発明した夫婦』(講談社現代新書)ではフランスで「ボン・マルシェ」というグラン・マガザン(デパートの原型)をつくったブシコー夫婦の話が紹介されますが、19世紀半ばごろからブシコーたちは紙冊子を定期的に刊行、既存顧客に送り続けていました。単なるカタログではなくて、自分たちの考えや世界観を表明し、ファンをつくる目的があったようです。
現代でも、アウトドアブランドの「パタゴニア」はカタログの発行をやめ、「ジャーナル」と称して国内外のパタゴニアが共感するストーリーを写真付きで発信し続けています。パタゴニア製品が写真に映ることはありますが、商品名やQRコードはそこにはありません。
くわしくはこちらに書きました。
関連記事:商品ではなく理念を「売る」。パタゴニアのジャーナルから考えるオウンドメディアの意味
日本でもバウムクーヘンがおいしい「治一郎」の株式会社ヤタローが、松浦弥太郎さんを編集に入れた冊子『tetote』を発行したりしています。

結局のところオウンドメディアやWeb、紙、その他媒体での表現は、企業の発言・コミュニケーションだと思うのです。
個人がXやInstagramで発信するように、法人も表現をする。その表現で取引先や顧客と繋がる。
そう考えると、表現にどこまでこだわるか、ということだと思うのです。そして、どのチャネルで表現するか、しないのか。何をして、しないのか。その選択に法人という「人」、「ニン」があらわれる。
大事なのは思想です。ミッション、バリューでもパーパスでもいいんですが、なぜ会社を、事業をやっているのか。
なぜ自分の会社が、このプロダクト・サービスがあり、だれの役に立つのか。なぜはじめたのか。なぜ自分たちがやらなければならないのか。メディアの発信は、この根拠の上に立つべきなのです。
それが動画でもいいし、写真でもテキストでもいい。繋がる手段として検索エンジンを意識してもいい。ただそのコンテンツにはきちんと自社の思想・理念の体重をしっかり乗せておく。そこができないと、見込み顧客と繋がるとか、集客する……という目的は達成しにくいのではないでしょうか。
関係性を築くための表現
そもそも「集客」はとても難しい。ただ人を集めてそのうちの0.1%、1~2%の人にコンバージョンさせるやり方は、(コンバージョンさせられることがすばらしいものの)多く集めてスクリーニングする考え方自体、マス広告と仕組みがあまり変わりません。
私はDIY BOOKSという店を経営して、ZINEスクールなるニッチなジャンルの講座を開いています。Instagram広告やメルマガ、その他の方法を試しましたが、結局のところ申込者の9割が「一度リアルに、イベントや前のスクールの発表会に来てくれた人」でした。
また『木ひっこぬいてたら、家もらった。』という書籍を売るために、京阪神の書店さん40軒あまりに営業をしました。結果的にすべての店舗が仕入れてくれるわけではありませんでしたが、その後メールのやり取りをさせていただいたり、何より現場で置かれるべき棚について意見をいただいたり、楽しく会話させていただいたり……というのが得がたい経験になりました。
やはり、営業って大事だなと思います。どぶ板や飛び込みが闇雲にいい……というわけではなく「関係性をつくる」ことなしにモノやサービスにお金を払っていただくのは難しい、ということです。
パタゴニアや治一郎の例は、この文脈にあると思います。
ニンを表す表現をする、必要であれば検索で出会う
だから、これからの企業のコンテンツマーケティング、テキストコンテンツは「思想・理念を発信する」「人(ニン)、人となりを表す」「世界観を伝える」ことをより意識すべきではないかと考えます(上のカギカッコ内は結局同じことを言っていますね)。
その上で、読者に役立つことがその目的に繋がるなら、SEOを流入チャネルの一つとして捉える、という順序が大事なのではないかと考えています。
またSEOの視点は、コンテンツ全般の制作の上で結構大事です。キーワード設計、ターゲットを明らかにするやり方は、エッセイを書く上でも私は役立っていて、書く主眼がはっきりするメリットがあります。
Googleのページランクの仕組みは優れた論文ほど引用される(被リンクされる)仕組みなので、そこで権威性が評価されます。
となると、どれだけ人の役に立ったかもそうですが、どれだけ企業としてその姿勢や思想を表現できているか、が大事なのではないでしょうか。
